保守・消耗品によるリカーリング
機器や設備を納めた後の保守契約、定期点検、修理、交換部品、専用の消耗品などから、長い期間にわたり繰り返し収益を得る型です。
仕組み
この型は、機器や設備を販売・設置した後に発生する「使い続けるための売上」を収益の柱にする考え方です。エレベーター、医療用の検査機器、工作機械、複合機、空調設備などのように、長期間使われ、定期的な点検や修理、専用の試薬・部品が必要になる製品でよく見られます。
売上は大きく二つに分かれます。一つは、機器そのものを販売・設置したときの一回きりの売上です。もう一つは、設置後に続く保守契約、点検、修理、部品交換、専用の消耗品、古くなった設備の改修(モダニゼーション)などの継続的な売上です。後者は、設置された機器の台数が増えるほど積み上がります。
収益の上がり方
継続的な売上は「設置されている機器の台数 × 1台あたりの保守・消耗品売上 × 契約の継続期間」で決まります。新しい機器の販売は景気や設備投資の波に左右されやすい一方、すでに設置された機器は使われ続ける限り点検や消耗品が必要になるため、継続的な売上は比較的安定しやすいとされます。
レイザー&ブレード(替え刃モデル)と近い型ですが、こちらは消耗品に加えて、人が現場に行く保守・点検サービスの比重が大きい点が特徴です。保守契約を取るには、全国・全世界に技術者を配置する体制や、部品の供給網が必要になります。自社製品だけでなく、他社製の機器の保守を受託するケースもあります。
見るべき指標
- 設置台数(稼働台数)と、そのうち保守契約を結んでいる台数
- 新規設置から保守契約に移る割合、保守契約の更新率
- 機器販売と保守・消耗品の売上構成比、それぞれの利益率
- 1台あたりの年間の保守・消耗品売上
- 技術者1人あたりの担当台数と対応時間
向いている事業・注意点
故障が安全や業務に直結し、定期点検が法令や業界の慣行で求められる製品、あるいは専用の消耗品がないと動かない製品に向いています。
注意点は、保守体制の維持にかかる固定費です。技術者の採用・育成、拠点、部品在庫には先に費用がかかり、設置台数が少ないうちは採算が合いません。また、保守契約を他社に切り替えられる市場では、価格だけでなく対応の早さや品質で選ばれ続ける必要があります。
新規事業で使うとき
製品を開発する段階から、納入後の点検・修理・消耗品で何を売るのかを決めておくことが大切です。後から保守の仕組みを付け足そうとしても、機器の設計や販売契約が対応していないことがあります。
事業計画では、機器販売の売上と保守・消耗品の売上を分けて見積もり、設置台数がどの水準に達すれば保守部門が黒字になるかを確認します(収益モデルの種類と選び方)。納入後の顧客接点を活かして利用状況を把握し、次の提案につなげる考え方はカスタマーサクセスの始め方も参考になります。
この型の事例
Carrier Global Corporation 空調機器の補修部品・保守サービス(アフターマーケット)
空調・冷凍機器の新規販売に加え、設置後の部品交換や保守・修理を売上の約3割で手掛ける米国企業の事例です。
資料:FY2025(2025年12月期)Form 10-K
Illumina, Inc. DNA シーケンサーと専用消耗品(試薬)の事業
遺伝子解析装置を販売し、その装置で使う専用の消耗品と保守契約で売上の大半を得る米国企業の事例です。
資料:FY2025(2025年12月28日終了)Form 10-K
Otis Worldwide Corporation エレベーター・エスカレーターの保守・修理・改修(Serviceセグメント)
エレベーターの新設よりも、約250万台の保守契約や修理・改修を担うServiceセグメントが売上の65%、セグメント営業利益の91%を占めている事例です。
資料:Form 10-K(FY2025、2025年12月期)
シスメックス株式会社 検体検査機器と検査試薬・サービス(ダイアグノスティクス事業)
血液や尿などの検体検査機器を医療機関や検査センターに設置し、その機器で使われる試薬とサービスから売上の7割超を得ている事例です。
資料:2026年3月期 決算短信・決算概要資料・通期決算説明会スクリプト(2026年5月公表)
日本空調サービス株式会社 空調を中心とした建物設備のメンテナンスとリニューアル工事
空調などの建物設備の年間保守契約とスポット保守を主力とし、設備の更新工事と一体で展開する日本企業の事例です。
資料:2026年3月期 有価証券報告書、2027年3月期第1四半期 決算短信・決算補足説明資料(2026年7〜8月)
株式会社大塚商会 サービス&サポート事業(保守・サプライ供給「たよれーる」「たのめーる」)
IT機器の導入後のハード・ソフト保守やサプライ供給を、ストックビジネスとして売上の約3割で手掛ける日本企業の事例です。
資料:2025年12月期 決算の概況(2026年2月2日発表)
Flowserve Corporation ポンプ・バルブ・シールの設置機器に対するアフターマーケット事業(QRCネットワーク)
産業用ポンプなどの設置機器の修理・部品・診断を126拠点で提供し、売上の約53%をアフターマーケットが占める米国企業の事例です。
資料:FY2025(2025年12月期)Form 10-K
GE Aerospace(General Electric Company) 民間航空機エンジンの保守・スペアパーツ(Commercial Engines & Servicesセグメント)
設置済みの航空機エンジンの保守とスペアパーツで売上の約7割を占めると記載し、長期サービス契約を柱とする米国企業の事例です。
資料:FY2025(2025年12月期)Form 10-K
Intuitive Surgical, Inc. ダヴィンチ手術支援ロボットとIonシステム
手術支援ロボットの販売やリースに加え、手術ごとに使う器具とサービス契約から継続的に収益を得る、医療機器企業の事例です。
資料:FY2025(2025年12月期)Form 10-K
Rolls-Royce Holdings plc 民間航空機エンジンと長期保守契約(TotalCareなど)
英ロールス・ロイスは航空機エンジンを売るだけでなく、飛行時間に応じて料金を受け取る長期保守契約でエンジンの稼働を支えており、民間航空部門では売上の約7割をサービスが占めます。
資料:Annual Report 2025(2025年12月期)
サイバートラスト株式会社 MIRACLE LINUX・AlmaLinux等のLinuxサポート(プラットフォームサービス)
Linux OSを中心にOSSの長期サポートやカスタマイズ支援を有償で提供し、サポートの継続契約を収益の柱とする日本企業の事例です。
資料:第26期(2026年3月期)有価証券報告書(2026年6月23日提出)
ファナック株式会社 サービス部門(保守・修理・部品などのアフターサービス)
CNCやロボットを使い続ける限り保守を提供するとして「サービスファースト」を掲げ、サービス部門が連結売上の16.5%を占める事例です。
資料:2026年3月期(2025年度)決算短信、2025年度決算説明会資料(2026年4月24日)
日立建機株式会社 バリューチェーン事業(部品・サービス、レンタル、スペシャライズド・パーツ・サービスなど)
新車販売以外の部品・サービスやレンタルを「バリューチェーン」として開示し、連結売上収益の44%を占める建設機械メーカーの事例です。
資料:2026年3月期(2025年度)決算短信、決算説明および中期経営計画資料(2026年4月24日)
株式会社U-NEXT HOLDINGS(旧:USEN-NEXT HOLDINGS) 店舗向け音楽配信・通信回線・POSレジなどの店舗・施設ソリューション
店舗向けの音楽配信や通信回線を入口に、POSレジやカメラなど60以上のDX/IoT商材をクロスセルする日本企業の事例です。
資料:株式会社U-NEXT HOLDINGS 2026年8月期 第3四半期決算説明資料(2026年7月13日)
株式会社ブリヂストン ブリヂストンのソリューション事業(鉱山・航空・トラックバス向けBtoBソリューション、リトレッド等)
タイヤの販売にとどまらず、鉱山・航空・トラックバス向けに使用段階のサービスを提供し、2025年12月期にソリューション事業の売上収益1兆4,207億円を計上した事例です。
資料:第107期(2025年12月期)有価証券報告書、2025年12月期 決算説明会資料(2026年2月16日)
株式会社ミマキエンジニアリング 産業用インクジェットプリンタ本体とインク
産業用インクジェットプリンタの本体を販売し、稼働台数の増加に伴うインク販売を伸ばしている企業の事例で、2026年3月期はインクの売上が本体を上回ったと記載されています。
資料:2026年3月期 決算短信(2026年5月13日)、第3四半期決算説明資料(2026年2月13日)、IRサイト「売上高の内訳」
株式会社野村総合研究所 コンサルティング・ITソリューション事業
コンサルティングからシステム開発、運用サービス、金融機関向けの共同利用型システムまでを一貫して提供し、運用サービスが売上の最大項目となっている事例です。
資料:2026年3月期 決算短信・決算説明会資料・有価証券報告書
株式会社小松製作所 建設・鉱山機械の部品・サービス、スマートコンストラクション、KOMTRAX
コマツは建設・鉱山機械の販売後の部品・サービスと、施工現場を最適化するソリューションに力を入れており、2025年度の建設機械・車両事業のアフターマーケット比率は52%です。
資料:2026年3月期 有価証券報告書、2025年度 決算説明会資料
「課金・収益の型」の他の型
- サブスクリプション
- フリーミアム
- 従量課金
- レイザー&ブレード(替え刃モデル)
- 広告モデル
- ライセンス(知的財産・ブランド)
- 段階(ティア)料金
- 席数(ユーザー数)課金
- ダイナミックプライシング
- 支払額自由(Pay What You Want)
- プリペイド・チャージ型
- 未使用分が収益になる型(ブレイクエイジ)
- 分割払い・後払い(BNPL)
- 定期便(サブスクリプションボックス)
- 最低利用料+超過課金(コミット型)
- 導入後の拡張で伸ばす(アップセル・NRR)
- オークション
- 逆オークション・一括見積もり
- 差別価格(学割・時間帯別など)
- 目玉商品(ロスリーダー)
- ブランドプレミアム価格
- 徹底した低価格・低コスト運営
- アンバンドル(基本は安く、オプション課金)
- アプリ内課金・アイテム課金
- シーズンパス・期間パス
- 寄付・投げ銭に支えられる型
