中期経営計画の中での新規事業の位置づけ方
新規事業は、中期経営計画(中計)に「3年後の売上目標」として載せるより、「成長投資の枠と、期間中に確かめることの一覧」として載せるほうが、事業の実態に合い、社外への説明もしやすくなります。中計に書かれた内容はその後の予算、評価、撤退判断の基準になるため、担当者は策定の段階から経営企画部門と一緒に書き方を決めておくことが大切です。
なぜ中計での位置づけが問題になるのか
多くの大企業では、中計は3年程度の期間で、売上高や利益、資本効率の目標を示すものとして作られます。新規事業がここにどう書かれるかで、次のようなことが決まります。
- 予算:中計の投資計画に枠がなければ、年度予算で新規事業の予算を確保するのは難しくなります。
- 評価:中計の数値目標に新規事業の売上が含まれていると、期間中の進み具合が売上の達成率で測られます。
- 撤退の判断:中計の見直しの時期が、新規事業を続けるかやめるかを判断する場面になります。
一方で、新規事業は、始めてから数年は売上が小さく、赤字が続くのが普通です。既存事業と同じ物差しで測れば、ほとんどの新規事業は「計画未達」になります。中計の中での位置づけを最初に決めておかないと、事業としての仮説が検証できる前に打ち切られるおそれがあります。
公的な指針が求めていること
上場企業の中計の書き方には、東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードが関係します。2026年7月21日付の改訂版では、原則4-1で、取締役会が経営戦略や経営計画を策定・公表するにあたり、資本コストを踏まえた収益計画や資本政策の基本的な方針、収益力・資本効率の目標を示し、その実現のために成長投資や事業ポートフォリオの見直しなど経営資源の配分について何を実行するのかを説明すべきとしています。
同じ原則の解釈指針には、新規事業の担当者にとって参考になる記載があります。
- 投資先を検討する際には、投資対象を社内に求めるのか(設備、研究開発、人的資本、知的財産などの無形資産への投資)、社外に求めるのか(M&A、業務提携、スタートアップへの出資など)、短期か中長期か、国内か国外か、といった多様な投資機会があることを認識すべきとされています。
- 取締役会で決めた事業ポートフォリオの基本的な方針や、見直しの状況を分かりやすく示すべきとされています。
- 中計を公表した場合は株主へのコミットメントの一つと認識し、目標未達に終わった場合には、原因と対応を分析して株主に説明し、次の計画に反映させるべきとされています。
また、経済産業省の「事業再編実務指針」(2020年7月)は、資本収益性と成長性の2軸で事業を評価する「4象限フレームワーク」を示し、高収益・低成長の成熟事業などから資金を回して、低収益・高成長の新規の成長事業に投資することを合理的としています。そのうえで、「両利きの経営」の観点から、新規事業への成長投資は中長期的な時間軸で評価することが重要であり、投資家には自社の競争優位性を具体的に説明することが期待されると述べています。同指針は、中計上の経営目標が売上高や利益の絶対額に偏っていることを課題として挙げ、資本収益性や成長性を基本とした「率」の指標へ移行することも提言しています。
つまり、中計の中では、新規事業を「既存事業と同じ収益目標を負う事業」としてではなく、「事業ポートフォリオの方針にもとづく成長投資」として説明するのが、公的な指針の考え方に沿った書き方といえます。
位置づけ方の3つの選択肢
新規事業を中計に載せる方法は、大きく3つあります。
| 載せ方 | 向いている段階 | 注意点 |
|---|---|---|
| 数値目標(売上・利益)に含める | 事業化が進み、売上の見通しに根拠がある段階 | 未達時の説明責任が重くなる。早すぎる段階で載せると撤退判断が遅れやすい |
| 成長投資の枠として示す | 課題や解決策の検証中、または事業化の初期 | 枠の上限額と、期間中に確かめることを具体的に書く必要がある |
| 個別には載せず、探索活動の方針として示す | テーマの探索段階、社内公募の段階 | 予算の根拠が弱くなりやすいため、年度予算の中で別枠を設ける |
どれを選ぶかは事業の段階によって変わります。複数の新規事業を抱えている場合は、段階の違う案件を一律に扱わず、「探索中のもの」「検証中のもの」「事業化したもの」に分けて書くと、社内外に説明しやすくなります。段階の分け方と判断の仕方は新規事業のステージゲートの設計で解説しています。
中計に書いておきたい項目
成長投資の枠として載せる場合、次の項目を中計本体か、その下にある事業別の計画に書いておくと、期間中の運用で迷いにくくなります。
- 事業ポートフォリオ上の位置:どの既存事業の延長にあるのか、あるいは新しい柱を狙うのか。会社の目指す方向とのつながり
- 投資枠:期間中に使う投資額の上限。人件費、開発費、出資、M&Aなど何を含むか
- 期間中に確かめること:顧客の課題、支払意思、事業の採算性など、中計の期間内に検証する仮説と、その判断の時期
- 評価指標:売上の絶対額ではなく、検証の進み具合や、事業化後はユニットエコノミクス、成長率などの指標
- 次の段階に進む条件と、撤退・切り出しの条件:どういう状態になれば追加投資し、どういう状態ならやめるか。自社がその事業の最適な持ち主でない場合の切り出しの選択肢
- 既存事業との関係:顧客や販路、技術を共有する範囲と、既存事業との競合が起きた場合の扱い
評価指標と撤退条件の決め方は新規事業のKPIの置き方と撤退基準の決め方を参考にしてください。
3年の計画期間と新規事業の時間軸のずれへの対処
中計の期間と、新規事業の検証や事業化にかかる時間は一致しません。ずれを前提に、次のような工夫をしておきます。
検証の区切りを中計の見直し時期に合わせすぎない
中計の中間見直しや次期計画の策定時期に合わせて判断すると、検証が途中の段階で継続か撤退かを決めることになります。判断の時期は新規事業の検証計画にもとづいて決め、中計の見直しでは「どの段階まで進んだか」を報告する形にします。
投資枠は段階ごとに分けて示す
期間中の投資総額だけを書くと、枠を使い切ることが目的になりがちです。「検証段階でここまで、事業化の判断後にここまで」と段階ごとに上限を示し、次の段階への進み方を条件で結びつけておくと、途中でやめた場合にも中計の未達とは扱われにくくなります。
期をまたぐ案件は次期計画での扱いを決めておく
中計の最終年度に事業化の判断が来る案件は、次期計画の策定と並行して判断することになります。策定作業が始まる前に、経営企画部門と判断の材料をそろえる時期をすり合わせておきます。
担当者が策定の段階でやること
中計の策定は経営企画部門が中心になって、計画期間が始まるかなり前から進むことが多く、新規事業の担当者が関わらないまま枠組みが決まってしまうことがあります。次のことを早めに進めておきます。
- 策定のスケジュールを確認する:事業部門からの計画提出の時期と、取締役会での審議の時期を把握する
- 経営企画部門と評価の物差しをすり合わせる:売上目標ではなく、投資枠と検証項目で載せることを事前に相談する
- 既存事業の責任者に説明しておく:顧客や人材の取り合いになる場合、中計の段階で調整しておくほうが後の摩擦が小さくなる
- 社外への説明の範囲を決める:公表する中計にどこまで書くかは、競合への情報開示の面からも検討が必要です。公表資料では方針と投資枠にとどめ、詳細は社内の計画に書く方法もあります
中計で投資枠が認められたあとも、実際の支出には個別の稟議が必要になるのが一般的です。稟議での説明の組み立て方は新規事業の稟議で経営陣が見る点と資料の構成で解説しています。
非上場企業や中堅企業の場合
コーポレートガバナンス・コードは上場会社を対象とした規範ですが、考え方は非上場企業でも使えます。オーナー企業や中堅企業では、中計そのものがない、あるいは社内向けの計画にとどまる場合もあります。その場合でも、「既存事業からどれだけの資金を新規事業に回すか」「どの時点で何を判断するか」を経営者と書面で共有しておくと、担当者が変わっても方針がぶれにくくなります。
参考資料
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