信越化学工業株式会社
Shin-Etsu Chemical Co., Ltd.
塩化ビニル樹脂と半導体シリコンウエハーを主力とする化学メーカー。電子材料と生活環境基盤材料が利益の柱
2026年3月期
- 売上高
- 2兆5,739億円 前期比 +0.5%
- 営業利益
- 6,352億円 利益率 24.7%
- 純利益
- 4,744億円
- ROE
- 10.4%
- 自己資本比率
- 78.7%
電子材料、生活環境基盤材料(塩ビ・か性ソーダ)、機能材料(シリコーンなど)が柱。2026年3月期は売上高2兆5,739億円(前期比0.5%増)、営業利益6,352億円(14.4%減)で、塩ビ市況の軟化が響いた。自己株式5,000億円の取得で手元資金を還元しつつ、米国で34億ドルの塩ビ原料投資を決めた。
事業の概要
報告セグメントは4つ。2026年3月期の売上高2兆5,739億円の内訳は次のとおり。
- 電子材料:1兆157億円(営業利益3,445億円)。半導体シリコンウエハー、フォトレジスト、マスクブランクス、レアアースマグネットなど
- 生活環境基盤材料:9,813億円(同1,648億円)。塩化ビニル樹脂、か性ソーダなど。米国子会社シンテックが中核
- 機能材料:4,408億円(同1,009億円)。シリコーン、セルロース誘導体など
- 加工・商事・技術サービス:1,359億円(同273億円)。半導体ウエハー関連容器、シリコーン成型品など
市場別の売上高はアジア・オセアニア35%(うち中国10%)、米国28%、日本21%、欧州9%、その他7%で、海外が約8割を占める。
業績の分析
2026年3月期は売上高2兆5,739億円(前期比0.5%増)、営業利益6,352億円(14.4%減)、経常利益7,082億円(13.7%減)、親会社株主に帰属する当期純利益4,744億円(11.2%減)。営業利益率は29.0%から24.7%、ROICは18.2%から14.6%に下がった。
減益の主因は生活環境基盤材料で、営業利益は43%減った。会社の説明では、塩化ビニルは北米で年央まで堅調だったがその後市況が軟化し、アジアなどでは価格の低迷が続いた。2月末に始まった中東での戦争による原料・エネルギー価格の上昇を受け、全製品の値上げに着手している。一方、電子材料はAI関連の活況とそれ以外の分野の需要回復を捉え、増収増益(営業利益6%増)となった。
| 決算期 | 売上高 | 経常利益 | 当期純利益 | 現金及び現金同等物 |
|---|---|---|---|---|
| 2022年3月期 | 2兆744億円 | 6,944億円 | 5,001億円 | 1兆89億円 |
| 2023年3月期 | 2兆8,088億円 | 1兆202億円 | 7,082億円 | 1兆2,473億円 |
| 2024年3月期 | 2兆4,149億円 | 7,872億円 | 5,201億円 | 5,901億円 |
| 2025年3月期 | 2兆5,612億円 | 8,205億円 | 5,340億円 | 8,827億円 |
| 2026年3月期 | 2兆5,739億円 | 7,082億円 | 4,744億円 | 5,620億円 |
(有価証券報告書の値。当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益)
塩ビ市況が高騰した2023年3月期が利益のピークで、その後は電子材料の伸びが塩ビの落ち込みを補う形が続く。2027年3月期の予想は4月時点で中東情勢を理由に未定とし、7月に売上高2兆7,000億円(4.9%増)、営業利益7,000億円(10.2%増)、当期純利益5,250億円(10.7%増)を公表した。第1四半期は売上高6,624億円(5.4%増)、営業利益1,737億円(4.2%増)。
手元資金と使い道
2026年3月末の現金及び現金同等物は5,620億円で、前期末から3,206億円減った。ただし貸借対照表の現金及び預金は1兆6,600億円あり、差には現金同等物に含まれない定期預金などがあり、同期は定期預金の純増が1,880億円あった。金融子会社はない。有利子負債は長期借入れ2,300億円の調達で168億円から2,432億円に増えた。自己資本比率は82.6%から78.7%に下がった。
同期の資金の使い道は次のとおり。
- 自己株式の取得:5,000億円(2025年5月に4,000億円、2026年2月に1,000億円)
- 配当:2,031億円(年間106円、配当性向41.9%)
- 設備投資:3,397億円(うち電子材料2,123億円)
会社は株主還元を資本政策の中核と位置づけ、配当性向40%前後を中長期の目安とし、総還元性向も考慮して自己株式を機動的に取得するとしている。2026年4月には2,500億円の取得枠を新たに設け、公開買付けで約527億円を取得、残る約1,973億円の枠は7月にToSTNeT-3によるコミットメント型の方式で取得を終えた。2027年3月期の年間配当は普通配当116円に、9月の創立100周年を記念した20円を加え136円を予定する。設備投資は3,500億円を計画する。
経営計画・成長戦略
中期経営計画は公表していない。決算短信では、目標とする経営指標を「年次ごとの増収、増益」と明記し、市況の影響を受ける製品が多いため外部環境の変化に機敏に対応し、各事業の耐性を高めるとしている。示されている方針は次のとおり。
- 半導体産業に必要な素材と技術を量・質・品種の三方で提供し、AIの進展を支える先端電子材料の総合メーカーとしての機能を拡充する
- AIインフラ関連の事業機会を全セグメントで追求する
- 生活環境基盤材料では規模の経済と多層的な事業展開を追求し、中国からの過剰輸出への対応策を多角的に打つ
- 珪素化学を使った課題解決を進める
新規事業・新しい取り組み
- 米国シンテック:2026年3月、ルイジアナ州プラケマインでエチレン年62.5万トン、塩化ビニルモノマー50万トン、か性ソーダ31万トンの設備を新設する34億ドルの投資を発表。2030年末までの完工を予定する。塩ビ原料からの一貫体制を厚くする投資
- 露光材料:新拠点の伊勢崎工場が操業を開始
- パワー半導体:自社開発の300mm QST基板上で、ベルギーの研究機関IMECが650V超のGaN破壊電圧を達成(2025年11月)
- シリコーン:リサイクル可能な熱可塑性シリコーンを開発
- 医薬関連:北海道大学と連携し、脂質ナノ粒子の生産装置を開発
新規事業担当者の視点では、塩ビ市況の低迷期にあえて上流の原料に大型投資する判断と、ウエハーからレジスト、マスクブランクスまで半導体材料を面で押さえる品ぞろえの組み立て方が参考になる。
分析:強みと課題
強み
- 半導体材料の幅:ウエハー、フォトレジスト、マスクブランクスを併せ持ち、AI向けの需要増を複数の製品で取り込める
- 財務の厚み:定期預金を含む現預金は1.6兆円。5,000億円の自己株式取得を行っても自己資本比率は約79%
- 規律ある開示:中計を置かない代わりに増収増益を目標とし、ROICや総還元性向を決算短信で示している
課題・リスク
- 塩ビ市況への依存:生活環境基盤材料は売上の約4割を占め、市況の軟化で営業利益が43%減った。中国の過剰輸出が続く前提で事業を進める必要があると会社も認めている
- 大型投資の回収:シンテックの34億ドル投資は2030年末の完工予定で、完成時の塩ビ需給が収益を左右する
- 地政学とエネルギー:中東情勢による原料・エネルギー価格の変動で、2027年3月期の予想を当初出せなかった
出典
- 2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)(信越化学工業、2026年4月28日)
- 2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)(信越化学工業、2026年7月24日)
- 米国シンテック社:塩化ビニルと苛性ソーダ事業強化へ34億ドルの投資(信越化学工業、2026年3月5日)
- 自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)による自己株式の買付けに関するお知らせ(信越化学工業、2026年7月24日)
- 創立100周年記念配当の実施 及び 配当予想の修正に関するお知らせ(信越化学工業、2026年9月15日)
- 有価証券報告書 2026年3月期(信越化学工業、2026年6月19日、EDINET書類管理番号 S100YE9I)
分析の更新履歴(1件)
- 最新の版 2026年9月28日時点の情報
業績の推移
数字から読み取れること
- 売上高は2022年3月期の2兆744億円から2026年3月期の2兆5,739億円へ増加(4期間の年平均成長率 5.5%)。
- 直近期(2026年3月期)の売上高は前期比 +0.5%。
- 直近期の営業利益率は 24.7%。
- 直近期のROEは 10.4%(有価証券報告書の記載値)。
- 直近期末の自己資本比率は 78.7%。
- 直近期の営業キャッシュフロー(7,126億円)は純利益の 1.5倍。
下の表の数値から自動で計算しています。
| 決算期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 2兆744億円 | 2兆8,088億円 | 2兆4,149億円 | 2兆5,612億円 | 2兆5,739億円 |
| 前期比 | — | +35.4% | -14.0% | +6.1% | +0.5% |
| 営業利益 | — | — | — | 7,421億円 | 6,352億円 |
| 営業利益率 | — | — | — | 29.0% | 24.7% |
| 経常利益 | 6,944億円 | 1兆202億円 | 7,872億円 | 8,205億円 | 7,082億円 |
| 純利益(親会社株主に帰属) | 5,001億円 | 7,082億円 | 5,201億円 | 5,340億円 | 4,744億円 |
| 総資産 | 4兆534億円 | 4兆7,303億円 | 5兆1,479億円 | 5兆6,366億円 | 5兆6,619億円 |
| 純資産 | 3兆4,292億円 | 4兆262億円 | 4兆4,240億円 | 4兆8,375億円 | 4兆6,433億円 |
| 自己資本比率 | 82.1% | 81.8% | 82.7% | 82.6% | 78.7% |
| ROE | 16.3% | 19.7% | 12.8% | 12.0% | 10.4% |
| 現金及び現金同等物 | 1兆89億円 | 1兆2,473億円 | 5,901億円 | 8,827億円 | 5,620億円 |
| 営業キャッシュフロー | 5,535億円 | 7,880億円 | 7,551億円 | 8,819億円 | 7,126億円 |
| 従業員数 | 24,954人 | 25,717人 | 26,004人 | 27,274人 | 27,342人 |
| 書類の提出日 | — | — | — | — | 2026/06/19 |
| 出典 | 開示資料 | 開示資料 | 開示資料 | 開示資料 | 開示資料 |
新しい決算の書類が提出されるたびに期を追加し、過去の期も残しています。 有価証券報告書の「主要な経営指標等の推移」から集計しています(営業利益は損益計算書の当期・前期のみ)。自己資本比率とROEは報告書の記載値です。
化学の会社
日本の化学は204社。 信越化学工業株式会社の直近の売上高は4位。 業種の会社をすべて見る
| 順位 | 会社名 | 売上高 | 営業利益率 | 純利益 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 三菱ケミカルグループ株式会社分析あり | 3兆7,039億円 | 0.8% | 118億円 |
| 2 | 富士フイルムホールディングス株式会社 | 3兆3,569億円 | — | 2,767億円 |
| 3 | 旭化成株式会社分析あり | 3兆745億円 | 7.5% | 1,587億円 |
| 4 | 信越化学工業株式会社 | 2兆5,739億円 | 24.7% | 4,744億円 |
| 5 | 住友化学株式会社 | 2兆3,285億円 | 6.5% | 609億円 |
| 6 | 日本ペイントホールディングス株式会社分析あり | 1兆7,742億円 | 14.5% | 1,798億円 |
| 7 | 花王株式会社分析あり | 1兆6,886億円 | 9.7% | 1,200億円 |
| 8 | 三井化学株式会社 | 1兆6,687億円 | 4.4% | 343億円 |
| 9 | 日本酸素ホールディングス株式会社 | 1兆3,596億円 | 14.6% | 1,238億円 |
| 10 | 株式会社レゾナック・ホールディングス分析あり | 1兆3,471億円 | 3.5% | 290億円 |
直近期の売上高で並べています。決算期が会社ごとに異なるため、同じ時期の比較ではありません。
事業の内容
有価証券報告書「事業の内容」より抜粋(有価証券報告書-第149期(2025/04/01-2026/03/31))
経営方針・経営計画
有価証券報告書「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」より抜粋
1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】 当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりです。 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末(2026年3月31日)現在において当社グループが判断したものです。(1)会社の経営の基本方…全文の抜粋を表示
掲載内容は開示資料をもとにした情報提供であり、特定の有価証券の売買を勧めるものではありません。数値の正確性には注意していますが、投資などの判断は必ず各社の開示資料をご確認のうえ、ご自身で行ってください。
